当社は、創業時より「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンの下に企業活動を行ってきました。社会の一員として、サステナブルな社会を実現するために、ESGの取り組みを推進しております。ESGの取り組みを推進する中でマテリアリティ(重要課題)の特定を行い、その中の1つとして「気候変動への対応」を掲げております。
2021年4月に、TCFD※1(気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言への賛同を表明するとともに、同提言に賛同する企業や金融機関等からなるTCFDコンソーシアム※2に加入いたしました。また、2022年4月からTCFDが提言する情報開示フレームワークを活用しシナリオ分析を実施しております。今後も、気候変動に関するガバナンスや事業戦略の更なる強化を目指すとともに、積極的な情報開示とその充実に努めてまいります。

※1 TCFD:世界主要国・地域の中央銀行、金融監督当局などの代表が参加する金融安定理事会(FSB)により設置されたタスクフォース。気候変動に関する情報開示を行う企業への支援や、低炭素社会へのスムーズな移行によって金融市場の安定化を図ることを目的とした、国際的なイニシアティブ。
※2 TCFDコンソーシアム:企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論することを目的とし、2019年に日本において設立された組織。TCFD提言に賛同する企業や金融機関等が取り組みを推進。

TASK FORCE ON CLIMATE-REATED FINANCIAL DISCLOSURES

TCFD提言における開示推奨項目

TCFD提言は、企業等に対し、気候関連リスク及び機会に関する、(1)ガバナンス、(2)戦略、(3)リスク管理、(4)指標と目標の項目について開示することを推奨しております。

  • ガバナンス
    a) リスクと機会に対する取締役の監督体制
    b) リスクと機会を評価する経営陣の役割
  • 戦略
    a) 短期・中期・長期のリスクと機会
    b) リスク・機会が事業、戦略、財務計画におよぼす影響
    c) シナリオ分析を考慮した組織戦略の回復力
  • リスク管理
    a) 気候関連リスクの特定・評価プロセス
    b) 気候関連リスクの管理プロセス
    c) 全社的リスク管理との統合
  • 指標と目標
    a) 気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
    b) 温室効果ガス排出量
    c) 目標と達成度

(1) ガバナンス

当社では、サステナビリティ委員会において、気候変動に関する方針や重要課題への対応について検討を行い、その対応状況や特に重要な事項等については、年1回、取締役会に報告され、取締役会の指示・助言のもとモニタリングを行っています。

(2) 戦略

気候変動が当社事業へ与える影響について、TCFDが提唱するフレームワークに基づいて、シナリオ分析の手法により、2030年時点における外部環境の変化を予測し、分析を実施をしました。

分析の対象

当社の売上の8割を占めるラクスル事業を対象として分析を行いました。

リスク/機会項目の特定

気候変動による当社事業におけるリスク及び機会となりうる項目を洗い出しました。その中で、特に事業との関連性が高いと考えられる項目を抽出しました。

シナリオの想定

シナリオは1.5℃シナリオと4℃シナリオを想定し、それぞれ各種機関に公表されたシナリオを参照しつつ、パラメータや社会の変化についての検討を行いました。

シナリオ概要主な参照シナリオ
1.5℃シナリオ2050年にCO2排出ネットゼロを目指す等、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃未満に抑制するため、2℃シナリオ以上に各国における政策・規制が強化されるとともに、社会における環境や気候変動への意識も現状に比べて大きく高まる・IEA World Energy Outlook 2021. Sustainable Development Scenario/
Net Zero Emissions by 2050 Scenario
・IPCC SSP1-1.9
4℃シナリオ既に実施済みの政策に加え、公表済みの政策が実現されることを想定したシナリオであり、政策・規制は1.5℃、2℃シナリオよりも弱い想定。CO2の排出量も当面は増加する可能性があり、社会的にも環境や気候変動への意識は現状の延長線上で推移する・IEA World Energy Outlook 2021. Stated policies Scenario
・IPCC SSP5-8.5

1.5℃シナリオにおけるリスクと機会

分類項目財務への潜在的影響当社への影響
リスク移行リスク政策・法規制リスクGHG排出価格の上昇運営コストの増加・炭素税が課されることにより運営コストが増加し、営業利益が圧迫される
市場リスク顧客行動の変化消費者の嗜好の変化による商品とサービスの需要の減少・脱炭素化の影響でペーパーレスが進展し、紙印刷への需要が減少することで印刷市場が縮小する
・低炭素な製品の需要の高まりや環境に配慮していない製品の淘汰により、当社サービスのシェア拡大スピードの鈍化や顧客離反が起こる
・コスト意識の高まりにより客単価が減少する
原材料コストの上昇収益構成と収益源の変化・森林保護規制強化や供給量減少に伴い、印刷用紙の調達価格が上昇する
・地政学リスクにより原油価格が不安定になることで輸送コストが上昇する
・脱炭素施策が加速して太陽光パネル、EV化などアルミ需要が増加し、アルミ板価格が上昇する
機会製品とサービス消費者動向消費者嗜好の変化変化する消費者の嗜好を反映するための競争力の強化による収益の増加・環境変化に対応した商品の需要増加を受け、環境に配慮した商品・サービスを提供する
・サステナビリティ活動の強化により顧客評判やブランドイメージが向上し、顧客離反が防止される
・チラシ等販促物のオンライン化が進む中、需要を捉えたサービスを提供することで、紙印刷市場の減少を補う

4℃シナリオにおけるリスクと機会

分類項目財務への潜在的影響当社への影響
リスク移行リスク市場リスク原材料コストの上昇収益構成と収益源の変化・原油価格高騰により輸送コストが上昇する
物理リスク急性的台風や洪水などの極端な気象事象の過酷さの増加輸送の困難、サプライチェーンの断絶による事業停止による利益の減少・豪雨・洪水による工場損害や物流ルート断絶に伴い、製品・サービスの販売機会を喪失する。また、役務提供が継続不能になることで、売上減のほか、信用低下に繋がる
・豪雨、洪水による工場損害や物流ルート断絶、人員確保に伴う対応策の実行により対応コストが増加する
慢性的降水パターンの変化と気象パターンの極端な変動運転コストの増加・森林破壊・火災等により、木材・紙資源価格増が上昇する
・急激な気温上昇・電力不足による突発的な電力小売価格高騰や停電。工場稼働が不安定になる
機会製品とサービス消費者動向消費者嗜好の変化変化する消費者の嗜好を反映するための競争力の強化による収益の増加・環境変化に対応した商品の需要増加、エコグッズ関連の商品・サービスを提供する
・サステナビリティ活動の強化により顧客評判やブランドイメージが向上し、顧客離反が防止される
・チラシ等販促物のオンライン化が進む中、需要を捉えたサービスを提供することで、紙印刷市場の減少を補う

1.5℃シナリオの世界観

炭素税の導入により、運営コストが増加し、営業利益が減少することが見込まれます。また、森林保全の規制が現在より強化されることで、印刷用紙の調達価格が増加することが見込まれます。環境意識やコスト意識が高まることで、ペーパーレス化やラクスルのサービス利用の減少が進み、売上が減少する可能性があります。一方で、環境に配慮したサービスの提供やサステナビリティ経営の強化、オンライン販促等の進展による売上増加の機会があると想定しています。

4℃シナリオの世界観

世界的なエネルギー使用量の増加によるエネルギー調達コストの増加や気候変動による森林減少による紙資源価格の増加により、原価の増加が見込まれます。また、異常気象による機会損失の発生やエネルギー供給の不安定化が見込まれます。一方で、環境に配慮したサービスの提供やサステナビリティ経営の強化、オンライン販促等の進展による売上増加の機会があると想定しています。

2030年におけるラクスル事業への財務インパクト試算と対応策

ラクスル事業に与える影響を評価しました。2030年の営業利益計画値をベースラインに設定し、財務的影響が大きく、定量評価が可能なリスク項目を1.5℃シナリオと4℃シナリオでそれぞれ試算しました。シナリオ分析において抽出・評価されたリスクについては、リスクを低減するための対応策を推進しておりますので、いずれのシナリオにおいてもレジリエンスを有していると想定します。

項目財務への影響2030年における影響評価影響度*当社の対応
1.5℃
シナリオ
リスク炭素税による運営コスト上昇炭素税が導入され、排出量に応じた財務影響が発生する当社の排出量からみて影響は軽微だが、適切な脱炭素対策を講じる
リスク原材料コストの上昇森林DD等の促進による違法伐採等の減少や違法伐採による紙の原材料価格の下落の解消によって紙の原材料価格が増加し、紙資源価格が上昇する紙の集中購買を実施することで、紙資源価格の上昇の影響を低減する
リスク原材料コストの上昇
世界的な紙需要の増加によって紙資源価格が上昇する
ーー
リスク原材料コストの上昇印刷用アルミ版の原材料コストが上昇するーー従来の印刷機から、アルミ版を使用しないデジタル印刷機へ一部転換を図る
リスク消費者の嗜好の変化による商品とサービスの需要の減少脱炭素の推進や廃棄物の削減による大企業顧客の離反が進み、売上が減少するーーデジタル販促等のサービスへの移行需要を取り込む
ペライチへの投資による集客デジタルコンテンツの拡充や紙印刷市場から集客市場及び印刷周辺領域への展開を進めることで、新たな収益源を確保する
効果検証付きチラシの提供により、お客様に価値の高いサービスを提供する
リスク消費者の嗜好の変化による商品とサービスの需要の減少印刷市場(特に事務印刷)の市場の縮小が加速し、売上が減少する
機会消費者嗜好の変化環境対応紙の需要が高まる++環境対応紙の取り扱いを拡大することで、需要を取り込み売上を向上させる
4℃
シナリオ
リスク炭素税による運営コスト上昇導入無し、ないしは最低限の規制にとどまる当社の排出量からみて影響は軽微だが、適切な脱炭素対策を講じる
リスク原材料コストの上昇世界的な紙需要の増加によって紙資源価格が上昇するーーー紙の集中購買を実施することで、紙資源価格の上昇の影響を低減する
リスク原材料コストの上昇ガソリン価格の増加による輸送コストの上昇タリフの見直しや調整を実施することで輸送コストを下げる
リスク原材料コストの上昇森林破壊・火災等による森林資源の減少、パルプ等の生産悪化により紙資源価格が上昇する紙の集中購買を実施することで、紙資源価格の上昇の影響を低減する
機会消費者嗜好の変化環境対応紙の需要が高まる環境対応紙の取り扱いを拡大することで、需要を取り込み売上を向上させる

8億円以上:大 5~7億円:中 0~4億円:小

*影響度(マイナス:ー プラス:+)記号の数は
事業における影響の大きさを表す

(3) リスク管理

当社グループは、経営に対して大きな影響を及ぼすリスクに適切かつ迅速に対応するため、代表取締役社長を委員長とするリスク管理委員会を設置し、事業活動を行う上で対処すべきリスクを認識・特定して、対策を協議しています。 気候変動に関するリスクと機会は、サステナビリティに関する事項を所管する部門において、社内の関係部門の協力の下、特定・評価を行い、サステナビリティ委員会に報告・提言し、全社的な気候変動への対応を推進していきます。サステナビリティ委員会で特定した重要なリスクについては、リスク管理委員会と連携し、全社リスクに統合して分析や把握を行うことでリスクの低減、未然防止等を図っています。

(4) 指標と目標

当社では気候変動への対応として、温室効果ガスの排出量の削減に努めます。温室効果ガスの排出量を測定・開示し、環境に配慮したシェアリングプラットフォームのデザインを通し、エネルギー効率の改善を推進します。
現在、Scope1,2におけるCO2削減目標について議論を進めています。バリューチェーン全体における温室効果ガスの排出削減への貢献を含め、中長期でのCO2削減目標に向けた指標づくりへの準備を行っていきます。

Scope1,Scope2およびScope3のGHG排出量の経年実績は以下をご参照ください。