ラクスルの次なる印刷革新ーー“デジタル輪転機”による生産性向上【ラクスルファクトリー】

これまでのラクスルによる印刷革新

日本の印刷業界には、多重下請け構造という長年の課題がありました。従来、大手2社だけで国内の全出荷額の半分近くを占め、この2社抱える案件の60〜70%を約3万社にのぼる中小の印刷会社に外注していました。また、業界全体として、季節や生産量によって手余り状態と手不足状態の差が大きいという課題があり、中小の印刷会社の平均稼働率は50〜60%程度に留まっていたのです。

多重下請け構造によって効率的な生産が難しいため、稼働は安定せず、事業拡大が望めない構造に陥り、新たな技術・設備への投資も進みづらい環境に置かれていました。当社はこの業界課題に対峙し、ネットを通じて「印刷したいユーザー」と「提携する全国の印刷会社」を最適にマッチングさせる仕組みを構築しました。結果として、ユーザーは安価で高品質なサービスを享受でき、印刷会社も収益の安定化が進むというWin-Winな取引を実現し、産業構造を変革しています。

ネットスクウェアとの業務提携から「ラクスルファクトリー」設立まで

その後当社は、調達プラットフォーム事業「ラクスル」における競争力の強化と生産体制の安定化を目的として、2021年9月にオンデマンド印刷大手のネットスクウェア株式会社(以下「ネットスクウェア」)を関連会社化しました。

その後2023年8月には、ネットスクウェアのオンデマンド印刷事業を分社化する形で株式会社ラクスルファクトリー(以下「ラクスルファクトリー」)を設立。さらに、2024年11月にはネットスクウェアを完全子会社化いたしました。ネットスクウェアが培ってきた高い印刷技術と自社生産設備は、ラクスルのビジネスモデルとの親和性が極めて高く、この一連の組織再編によってさらなるシナジーの創出と強固な生産体制の構築を目指しています。

ラクスルはもともと、インターネットを通じて印刷の需要と供給をマッチングするプラットフォームを展開していましたが、多くの印刷工程を外部に委託していたため、安定した生産体制の構築が課題となっていました。ネットスクウェアの子会社化により、生産工程を抜本から見直していくことで、印刷品質や納期体験の向上、さらにはコスト削減も実現しています。

生産性向上に向けた一連の取り組み

ラクスルファクトリーでは、印刷業務の効率化とコスト削減を目的に、封筒印刷や名刺生産の工程自動化、さらには「デジタル輪転機」の導入など、さまざまな施策を展開しています。なかでも最も大きなインパクトをもたらしたのが、「デジタル輪転機*1」による印刷工程の革新です。

この取り組みにより、従来のトナータイプの印刷機では成しえなかった生産性を実現し、労務費や材料費の劇的な低減に成功しました。また、印刷物の納期も短縮されており、たとえば封筒やシールといった商材では、従来3営業日かかっていた納品期間を1営業日まで短縮するなど大きな改善が見られています。

(*1)デジタル輪転機とは、Roll to Roll方式による高速インクジェット印刷機で連続的かつ高効率な多工程処理が可能なため、大量生産に適しています。版を使用せずデータから直接印刷できるため、小ロット・多品種から大量印刷まで柔軟に対応可能です。

「帳票機」から「チラシ機」へ――発想の転換

「デジタル輪転機」導入の背景には、既存設備の常識にとらわれない柔軟な発想があります。もともと「連帳機」や「帳票機」と呼ばれていたこの設備は、その名のとおり帳票出力に多く使われており、チラシのようにインク量が多くコート紙への印刷を必要とする用途での活用はほとんど例がありませんでした。

しかしラクスルは、この設備に“連続的に高品質なチラシを印刷する専用機”としての可能性を見出しました。少なくとも国内では当社のような運用事例は存在せず、生産システムから後工程の構成に至るまで、独自ラインを構築。チラシ印刷を前提とした専用運用は、国内初の取り組みとされています。

この領域で本格的な設備導入と運用を実現できた背景には、ラクスルならではの構造的な強みが大きく寄与しています。

「デジタル輪転機」を「チラシ印刷」用途へ応用できた理由

本来、帳票印刷用途で使われていた「デジタル輪転機」を、なぜチラシ印刷に活用できたのか。それはラクスルの成長を支えるうえで、これまでの延長線上では到達できない、圧倒的な生産性の実現が急務だったからです。

当初から目指すべき生産性を明確なゴールとして設定し、逆算で検討を進めました。しかし、両面カラーや片面モノクロなどインク使用量の異なるチラシを連続して印刷するには、極めて高度な対応が求められます。実際、検討過程では複数の関係者から「実現は難しいのでは」という声もありました。

それでも技術的な検証を重ねた結果、多くの選択肢の中から「デジタル輪転機の活用」にたどり着きました。これは従来の用途にとらわれず、「発想」から導き出されたアプローチです。

さらに、ラクスルは“ネット印刷”というビジネスモデルにより、小ロットの注文が大量に集まる仕組みを持っています。一見、小ロットには不向きな大型設備であっても、蓄積された注文量によって高効率な運用が可能となり、この構造こそが新たな生産方式を成立させた大きな要因です。

これにより、従来は対応が難しかった「少量多品種」印刷において、高速処理と高い生産性の両立が可能となりました。デジタル印刷技術を活用し、色やデザインが異なる小ロットのチラシを連続的に印刷できる仕組みを構築したことで、処理可能な案件数(キャパシティ)が飛躍的に向上しました。その結果、ラクスルで受注した案件をより大量かつ迅速に納品できるようになり、「納期短縮」という形で顧客価値の向上を実現しています。

メーカーとの協業が生んだ実用化の突破口

私たちは、単に既存の設備を導入するのではなく、「印刷業界の仕組みそのものを変える」という強い意志のもと、印刷機メーカーである株式会社リコー様を巻き込んだ共同開発を推進しています。

その象徴が「デジタル輪転機」の導入と運用です。当初、最大の壁となったのは、生産効率を左右する画像品質の安定化でした。品質の不安定さは「やり直し」を発生させ、業界全体の課題である低生産性を助長します。この課題に対し、私たちはリコー様の技術力と当社の現場知見をぶつけ合い、試行錯誤を重ねることで、安定した品質での連続稼働という「業界の常識」を塗りかえる劇的な生産性改善を実現しました。

こうしたメーカーとの垣根を超えた共創は、今回が初めてではありません。先行して取り組んだ「封筒印刷プロジェクト」においても、私たちの「ともに印刷業界を変えたい」という情熱に対し、リコー様には「カスタム印刷機」や「工程管理システム」、さらには現場の「治具(じぐ)*3」一つに至るまで、徹底的な効率化に向けた共同開発に応えていただきました。

メーカーの既製品に合わせるのではなく、業界を変革するために最適な設備を共に創り上げる。この強固な信頼関係と成功体験が、今回のチラシ向け「デジタル輪転機」プロジェクトという大きな一歩を支えています。私たちはこれからも、パートナー各社とともに、圧倒的な生産性向上による業界変革を加速させます。

この信頼関係が、第二弾として実現したチラシ向け「デジタル輪転機」プロジェクトへつながっています。

(*2)封筒印刷プロジェクトとは、デジタル印刷の部数制限と紙詰まりなどの課題を解決するため、ラクスルファクトリーがメーカー様と連携して専用の給紙・搬送・定着機構を改良した印刷機を開発した取り組みです。バーコード照合による仕様管理システムを導入し、正確で効率的な印刷を実現。品質と生産性を両立し、従来の常識を覆す新たな生産体制を構築しました。

(*3)製造や組み立ての現場で使われる専用の道具や装置のこと。具体的には、部品の位置を正確に固定したり、作業の効率化や品質の安定化を図るために使われます。例えば、印刷物の搬送や取り扱いをスムーズにするための装置や、製品の加工を均一にするための固定具などが「治具」にあたります。

今後の展望――“構造で勝つ”印刷ビジネスへ

ラクスルが展開する印刷事業の特長は、単なる設備投資や効率化にとどまらず、ビジネスモデルと構造を一体化して強化している点にあります。当社は今後も、印刷工程の高速化・高品質化を軸に、価格・納期・品質の三つの要素すべてで顧客に価値を還元し続けてまいります。


補足:本記事は(2025年6月時点)での当社施策内容に基づいて構成したものであり、記載されているデータや評価は取材時点での情報です。