【座談会】「70年にわたるモノづくり」と、「障がい者就労支援の環境づくり」――M&Aを通じた次なる成長や雇用創出への新たな可能性とは
70年近い歴史を持ち、オリジナル手提げ袋の製造・販売を通して日本のモノづくりを支えてきた丸玉工業株式会社。2015年には丸玉ウェル株式会社を設立し、「どんな人も自分の力で立つ」ことを支える環境づくりにも取り組んできました。この度、両社が次なる成長と挑戦のステージとして選んだのが、RAKSULグループへのグループインです。
調印当日に実施した座談会では、3名のキーパーソンに、これまでの歩みとM&Aに込めた想い、そして今後の展望についてじっくりと語っていただきました。




創業以来の歩みと大切にしてきた想い
まずは、丸玉工業および丸玉ウェルの創業から現在に至るまでの歩みについて、お聞かせいただけますでしょうか。
山下佳孝:
オリジナル手提げ袋の製造・販売を行う丸玉工業は、先代が創業してから70年近くを経ています。創業当時の岐阜県は繊維産業が盛んで、当社も繊維製品向け包装材の製造・販売から事業をスタートしました。その後、特定の業界にとらわれず、幅広い業種のお客さまと関われる「手提げ袋」を自社ブランドとして展開し、全国へ販路を広げてきたことが、今も続く顧客基盤の礎になっています。
私は28年前に入社して以来、先代の想いと時代の流れを意識しながら、メーカーとして新たな可能性を探ってきました。自社工場のみならず、長年の協力会社とも連携し、海外にも視野を広げて、ニーズに合わせた商品開発や新たな機能づくりを積み重ねてきました。また、11年前には就労継続支援A型事業所を運営する丸玉ウェルを設立しました。働くことで障がいを持つ方々も自立できる環境を整えたり、国内外の多様なパートナーとのつながりを大切にしたりしてきたことが、現在までの歩みを形づくっていると自負しています。

丸玉ウェルの設立について、障がい者就労支援に対する想いをお聞かせいただけますか。
山下さやか:
丸玉工業では創業時より、近隣の「授産施設」と呼ばれる障がいのある方、生活困窮の方が日中に生産活動をする場に仕事を提供することで、社会のなかで困難を抱えた方を支える取り組みを続けてきました。この企業精神は「障がいのある方が社会の一員として自立し、誇りを持って働ける場をつくりたい」という強い想いに変わっていきました。
2013年に「障害者総合支援法」が施行され、授産施設はより多様な日中活動の場へと移行していきました。その一つである、福祉的な視点と労務管理の視点を併せ持った“就労継続支援A型”の誕生を機に、私たちは丸玉ウェルを設立し、障がいのある方に働く場を提供することを通じて、共に成長できる会社を創り上げようと奮闘してきました。
福祉の世界と一般のビジネスの世界では流れている空気や価値観が全く異なります。正直なところ、今も苦労と困難の連続です。社会的正しさや障がいを持つ方の将来の幸せよりも、本人のその時々の「お気持ち」に重点が置かれ、間違った選択だと分かり切ったことでさえ、支援として優先されてしまいがちです。だからこそ私たちは「福祉だから」「制度だから」といった枠にとらわれるのではなく、民間企業の立場から、働くことを通じた本当の意味での自立支援のあり方を追求したいと考えるようになりました。
「どんな人も自分の力で立ち、生きていく力を得ること」が本当の支援だと思い、子育てと同じように、情熱と愛情を持ち、寄り添いながらも自立を促す「本来の働く場」としての運営にこだわってきました。10年以上続けてきた今、さまざまな壁を乗り越えて、少しずつその輪が広がりつつあることを実感しています。

「RAKSULグループへの参画」という挑戦を選んだ背景
順調に歩んで来られたとお見受けしますが、M&Aを検討されるに至った背景を伺えますか。
山下佳孝:
先代から会社を引き継ぎ、私自身も50歳を過ぎた今、改めてこれからの発展について深く考えるようになりました。メーカーとしては、時代の流れに合わせて絶えず多様な機能を強化し、市場のニーズに応えることが欠かせません。同時に、未来に関しては家族や自社だけで模索するのではなく、より大きな組織や新たな仕組みのなかで、これまで培ってきたモノづくりの力を活かしていくことにも大きな意義を感じ、M&Aを検討し始めました。
山下さやか:
障がい者就労支援の観点では、私たちは「どんな人も自分の力で立ち、生きていく力を得ることこそが本当の支援」という想いを発信・実践してきました。しかし、中小企業である丸玉工業・丸玉ウェルの立場では、どれだけ真剣に取り組んでも影響力には限界があり、広く共感を得ることの難しさを痛感しました。そこで、もっと大きな企業の一員となることで、「障がい者就労支援や雇用の価値」、そして「多様性のある社会や障がい者と共に働くことの大切さ」をより広く社会へ発信できると考え、M&Aを進める決意を固めました。
RAKSULとの出会いや印象について教えていただけますか。
山下佳孝:
M&Aの検討を進めるなかで、「これまで私たちが大事にしてきた価値観や想いを、時代が変わってもずっと一緒に守ってもらえる会社とご縁を持ちたい」という強い気持ちがありました。そのようなタイミングでRAKSULと出会い、西田さんに我々の想いや考えを丁寧に受け止めていただいたのが、とても印象的でした。最初にお会いした時は緊張していましたが、対面してすぐ和やかに色々な話を聞いていただき、RAKSULの方々の温かさや誠実な姿勢に触れ、自然と「ご一緒したい」と感じました。
山下さやか:
西田さんやM&Aアライアンス統括部の伊藤さんと初めてお会いした時、本当に「恋に落ちた」と言えるくらい強く惹かれました。よくM&Aは「結婚」に例えられますが、実際にそれは事実であったことを伝えさせていただきたいです。「RAKSULの方々と一緒になりたい」と直感的に感じたこのご縁に、面会した日の帰り道は晴れやかな気持ちで満たされたことを、今も鮮明に覚えています。
最終的にRAKSULへのグループインを決断された理由を、ぜひお聞かせください。
山下佳孝:
これまで私たちだけでは到達できなかった大きなプラットフォームのなかで、私たちが長年培ってきた商材や仕組みを展開していくことで、よりチャレンジングな取り組みと成長を目指せると確信したからです。また、障がい者雇用など、多様性に富んだ方々と新しい仕事や働く場を創っていける可能性が拡がる点も、大きな魅力でした。「共に成長する」という考え方のもと、西田さんをはじめRAKSULの皆さんが私たちの想いに寄り添ってくださったことで、私たちは前向きにM&Aを進めることができました。この決断は、私たち自身だけでなく、私たちの大切な丸玉の仲間たちにも、新たな夢や希望をもたらすと信じています。
山下さやか:
私も同じ気持ちで、RAKSULの皆さんが誠実に寄り添ってくださったからこそ、グループインに向けて迷いなく、強く前に進むことができたと感じています。「この方たちとなら、どんな困難も乗り越えられる」と確信できたことが最終的な決め手となりました。若い力が溢れるこのRAKSULグループに加わることで、丸玉工業と丸玉ウェルは、これまで私たちが想像すらできなかった先、ずっと先の未来へと一緒に進んでいけるのだと期待しています。

共に切り拓く、これからの成長とイノベーション
丸玉工業・丸玉ウェルをグループ会社としてお迎えするにあたり、大切にしたことを教えていただけますか?
西田真之介:
RAKSULグループとしてM&Aを実施するうえで大切にしているのは、当社にはない強みを有していることや、共通する価値観をお持ちであることです。丸玉工業さんと丸玉ウェルさんには、その両方が大きく当てはまると感じました。
特に印象深かったのは、就労支援A型事業所での取り組みです。実際に働く現場を見学させていただきましたが、さまざまな個性を持つ障がい者の方々を良いモノづくりやサービス提供をするための「製造の戦力」として尊重されている様子に感銘を受けました。一人ひとりの強みをしっかり把握して担当業務に活かすことで、誰もが活躍できる現場をつくり上げていらっしゃる姿勢にとても惹かれました。
価値観や考え方の共通点についても、ぜひ詳しくお聞かせください。
西田真之介:
事業面では、私たちもパートナー企業様との協力を大切に価値提供に努めてきました。一方、丸玉工業さんと丸玉ウェルさんも自社の強みを活かしつつ、国内外の外部パートナーとうまく連携し、モノづくりに取り組まれていることがとても印象的です。事業の規模や仕組みの違いはあっても、根本的な考え方に共通点を感じています。
今後は、それぞれのアセットやカルチャーを尊重しながら、例えば「製造の改善をどのように進めていくか」などを高い視座で一緒に考え、より良い未来を築いていけることがとても楽しみです。当社としても、こうした価値観を大事にし、ご一緒できることを心から嬉しく思っています。

RAKSULグループでは、就労支援A型事業所の運営は今回が初めてです。障がい者の就労支援や雇用機会を着実に拡大させていくうえで、乗り越えるべき壁について教えていただけますか。
山下さやか:
丸玉ウェルの創業当初、既存の製造現場で障がい者を受け入れる体制づくりへの課題に直面しました。「どのような活躍ができるのか」「本当に現場の戦力になるのか」が最初は分からず、盤石な体制構築までに時間を要したことが、強く印象に残っています。
先日、私たちは今後の障がい者就労支援や雇用機会の拡大に向けて、RAKSULグループの就労先候補を見学しました。恵まれた環境に大きな可能性を感じる一方で、「受け入れ体制づくり」の難しさは今後も変わらないと感じています。だからこそ、誰もが仕事や仲間への愛情と情熱を持って協力し合える現場づくりを目指して、これから力を注いでいきたいです。
山下佳孝:
丸玉ウェルもこの10年間で、障がい者の方々が現場に溶け込めるようにさまざまな支援を続けてきました。そうして、彼らが本当に現場から必要とされる戦力へと成長し、現場の意識変容が起こり、徐々に受け入れられていくという流れが生まれました。このような試行錯誤の経験を活かし、障がい者と一緒に働く場づくりに対して「どのような段階やステップで取り組めば、より良い将来を描けるか」を考えていけたらと思います。
さっそく具体的な課題のお話もいただきましたが、今後のシナジー創出や成長についてどのような期待や展望をお持ちでしょうか。
西田真之介:
まだM&Aも決まっていない初めての面談時に、不躾ながら私から「もし一緒になった際に売上を2倍にしていくことだけでなく、障がい者雇用を2倍にすることはできますか」とお聞きしたところ、お二人から「実現させます!2倍どころではなく取り組みたいです」という非常に心強いお返事をいただきました。これから戦略やノウハウを共有しながら、中長期的には岐阜県内に限らず雇用の拠点を広げていきたいです。
事業シナジーについても、これまで売上や利益をしっかりと伸ばし、継続的に工夫を重ねてこられた丸玉工業さん・丸玉ウェルさんとさらなる成長を目指していけることがとても楽しみです。丸玉工業さんが取り扱っていて当社にはない商材をECサイトで展開したり、カスタマイズ商品の営業面を強化したりすることで、顧客価値と提案力の両面でシナジーを発揮できると考えています。そうして事業成長につなげることで、新たな仕事が創出され、障がい者雇用の機会が広がるという好循環が生まれることも期待しています。
最後に、グループイン後に実現したい夢や将来像を教えてください。
山下佳孝:
グループインを予定している8月から、丸玉工業は「ラクスルクラフツ株式会社(仮称)」、丸玉ウェルは「ラクスルコワークス株式会社(仮称)」として新たな船出を迎えます。今後、私たちは「RAKSULグループでしか果たせない役割」を担い、業界内外からさらに必要とされるメーカーを目指したいです。長きにわたって包装業界で培ってきた価値観を大切に、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、独自の強みや仕組みを活かし、多様な仲間やパートナーと協力して前向きな挑戦を続けられたらと思います。今まで業界全体で実現できなかった課題にも果敢に取り組み、グループならではのシナジーを成果として示していけるよう、次のステージへ進んでいきたいと考えています。
山下さやか:
「IT活用やDXによる革新的な事業」と「障がい者の“ひとの手”によるモノづくり」という対極の強みを融合させ、日本にイノベーションを生み出したいです。その成功を目指して、現場で人を育てる地道な取り組みに全力を尽くしていきます。また、RAKSULグループの豊富なリソースを最大限に活用し、今まで成し得なかった挑戦ができることに大きな期待と希望を抱いています。グループのなかで当社ならではの強みを確立し、これから新たな価値を提供していきたいです。