【座談会】トートバッグ・エコバッグ製造のリーディングカンパニーとしてのさらなる成長へ—M&Aで推進する経営ノウハウの向上とDX推進
トートバッグ・エコバッグのオリジナルプリントに特化したECサイト「トートバック工房」を運営するエーリンクサービスは、2023年10月にラクスルにグループインした。業界トップクラスの売上を誇る同社がM&Aに踏み切った理由、そして両社の協業によって生まれる相乗効果への期待と、今後の展望について、キーパーソンに話を聞いた。

株式会社エーリンクサービス 代表取締役 山本禎久 Toshihisa Yamamoto
株式会社エーリンクサービス PR事業部長 若林裕子 Yuko Wakabayashi
ラクスル株式会社 カスタムグッズ・アパレル事業 統括責任者/株式会社エーリンクサービス 取締役 丸山 諒 Ryo Maruyama
生き残り、成長し続けるための「選択肢」だったM&A
── まずはエーリンクサービスの創業からこれまでの歩みについて、改めてお聞かせいただけますか。
山本:エーリンクサービスは2009年に福井県で創業しました。当時、私はサラリーマンでしたが、リーマン・ショックの影響で前職を失い、再就職先を探していたんです。しかし、リーマン・ショック直後は良い就職先も見つからず、自分で事業を始めるという選択をせざるを得ませんでした。
幸いなことに、私はベトナムでの工場生産や現地駐在の経験がありました。その経験を活かして、ベトナムで製造したものを日本で販売するというビジネスモデルを思いついたんです。また当時は1ドルが77〜78円という超円高で、輸入ビジネスには非常に有利な状況だったということも大きな後押しとなりました。
事業を始めるにあたり、生き残るためには市場でNo.1かオンリー1になれる領域でなければダメだと考えていました。そこで探し出したのが、ノベルティバッグの通販という、比較的ニッチな領域です。この領域なら日本市場でNo.1を目指せると確信し、事業をスタートさせました。
── 着実に業績を伸ばされてきた中で、ラクスルとのM&Aに踏み切るに至った経緯を教えていただけますでしょうか。
山本:ラクスルと提携した最大の理由は「継続性の担保」です。弊社は創業から15年が経ちましたが、その間に競争環境は大きく変わりました。以前は小さな会社が雨後の筍のようにひしめく状態でしたが、近年は競争力の弱い会社が淘汰され、上場企業などの規模の大きな会社がシェアを持つ状況になってきています。
この傾向は、今後も続くだろうと感じています。現在までは、地方かつ限られた人材という環境の中であっても成長を続け、一定の利益を確保できました。しかし、10年後、15年後を見据えたときに、弊社単独で成長を続けられるのかという不安は高まっていました。そのため、2〜3年前からM&Aも選択肢のひとつとして考えてきた、という背景があります。
加えて、初回の打ち合わせで見せていただいたM&Aに対する姿勢が、この決断を後押しする大きなきっかけとなりました。初めてお会いするその日に、立場のある方々が3名も揃って出席してくださいました。課長や部長クラスとの面談から始まることも少ない中、CxOをはじめトップマネジメントが直接対話してくださったことで、ラクスルの本気度を強く感じ、一気に話が進んだと思います。

── ラクスルとしてはエーリンクサービスとの協業についてどのような期待を持たれていたのでしょうか。
丸山:エーリンクサービスは、3〜4年前から注目していた素晴らしい会社です。その企業としての価値の高さは、数字が物語っています。トートバッグ専業ECでは国内No.1規模の売上という実績は、お客様からの高い評価の表れです。ECサイトの運営からサプライチェーンまで、その実力は明らかでした。
加えて、実際に訪問させていただいた工場は活気に満ち、社員の方々の仕事に対する姿勢も非常に印象的でした。特に若林さんをはじめとする社員の方々との面談を通じて、山本社長以外にも皆さまの視座の高さを実感し、目指す方向性が一致していると早い段階で確信を持つに至りました。
今後、お客様への価値をより高めていくためには、シェアリングプラットフォームだけでなく、自社での物品調達から印刷加工までを一貫して行うことが重要になると考えています。その観点からも、エーリンクサービスは最適なパートナーでした。

人材確保・育成にも大きく作用した「上場企業の機会提供」
── グループ参画後、具体的にどのような変化が見られているのでしょうか。
山本:経営面で大きな変化がありました。これまでは個人的な判断で動くことも多かったのですが、いまは取締役会での定期的な議論を通じて、組織的な意思決定と実行のプロセスが確立されつつあります。一方、ラクスルは弊社の裁量を大きく認めていることが挙げられ、必要に応じてサポートやアドバイスが提供される形で、両社はつながっています。このような信頼関係のもと、遠心力と求心力のバランスの取れた体系的な経営体制が整えられつつあると思います
── 人材面での具体的な変化について教えてください。
若林:私は創業から1〜2年目に入社した最初の社員のひとりです。山本社長と私、そしてもうひとりの女性社員の3人でスタートし、急成長を遂げてきました。しかし、その成長スピードに組織体制や教育体制が追いつかないという課題も感じていました。
現在は、ラクスルのノウハウを活用することで、より体系的な組織づくりが進んでいます。2024年7月以降、製造を中心に33名の新入社員を迎え入れ、社内の雰囲気が明るく活発になってきていると感じます。その応募者の半数以上が、「上場企業(ラクスル)の子会社である安定性」を評価して入社を決めてくれました。
採用では、ラクスルのノウハウを提供いただき、人員配置計画の策定から応募者の動向分析、コンバージョン率の改善まで、数値に基づいた採用戦略を展開してきました。生産部の部長と連携しながら、毎週の改善を重ねた結果、着実な成果が出てきているところです。
── M&Aに対する現場の皆さんの反応はいかがでしょうか。
若林:もちろん、当初は変化への不安の声もありました。各種制度の変更など大きな変革期を迎えて、従業員の中に戸惑いがあるのは事実です。しかし、この変革を前向きにとらえて取り組む社員たちとともに、会社を成長させていけると確信しています。実際に、生産性の向上や売上の増加が見込める状況となり、社員の間でも「いける」「やれる」という期待が高まっているんです。

丸山:私は人材育成の核となるのは「機会提供」だと考えています。ラクスルへのグループインによって、より多くのチャレンジの機会が生まれる。現場ではその機会を通じて、人が成長していく。同時にラクスル自身も、グループ企業がチャレンジできる機会を創出し続けられるよう価値を高め、成長していく好循環を生み出していくことが重要だと強く感じています。
── 今後の展望についてお聞かせください。
山本:まずはトートバッグ分野で、確実に日本市場No.1の地位を確立することを目指しています。そのためには、今まで弊社単独で志向していた取組みの延長だけでなく、ラクスルとのシナジーにより生み出せる非連続な成長が必要と考えており、その取組みをスタートしています。
──最後に、今回のM&Aの経験を通じて、これから事業承継やM&Aを検討される方々へメッセージをいただけますでしょうか。
山本:福井県には、家族経営の独立企業が多くあります。そのため、弊社のM&Aついても、「頑張って上場すると思っていた」など落胆の声が寄せられたり、M&Aを「ハゲタカ」視したりする、ネガティブなイメージを持つ人も多い印象です。しかし、私はそうは思いません。M&Aは両者にメリットがあってこそ成立するものです。今回のグループインは、お互いの強みを活かし、共に成長を目指せる良いシナジーを生むためのものだと確信しています。特に地方の製造業においては、経営ノウハウの向上やデジタル化の推進など改善の必要を感じている経営者も少なくないでしょう。さらなる成長への選択肢として、M&Aを積極的に検討する価値はあると、私は思います。