【対談】会社を売るのではなく、会社を伸ばす——沖縄の制作会社ROSとペライチ、参画半年・6年の経営者が語る「M&Aという選択」
沖縄県内でホームページ制作実績5000社以上を誇るROS株式会社は、2026年2月にラクスルグループへ参画しました。一方、ホームページ作成ツール「ペライチ」を運営する株式会社ペライチは、2020年の参画から6年目を迎えます。参画から半年のROS・藤本 和之社長と、参画6年のペライチ・藤本 旬社長。奇しくも同じ「藤本」姓を持つ二人の経営者に、グループ入りを決断した理由、参画後の変化、そして地方のWeb制作会社とともに描く未来を聞きました。

プロフィール
藤本 和之(ふじもと・かずゆき) 写真左:ROS株式会社 代表取締役社長。2010年に沖縄でROSを創業。中小企業向けに月額制でホームページの制作・保守・運用を一括で担う「丸投げ型」サービスを展開し、沖縄県内ホームページ制作実績が5000社以上に。2026年2月、ラクスルグループに参画。
藤本 旬(ふじもと・じゅん) 写真右:ラクスル株式会社 事業統括部長/前・株式会社ペライチ 代表取締役社長(※2026年8月よりラクスル株式会社に吸収合併)。みずほ証券でM&A・経営企画に携わり、EY・PwCでのコンサルティングを経て、2022年にペライチへCFOとして入社。2025年4月、代表取締役に就任。就任後、創業以来初の通期の黒字化を達成。
「売る」より「売った後」。沖縄で築いたサブスク型のホームページ事業
藤本和之社長は2010年にROSを創業されました。どのような考えで事業を育ててこられたのですか。
藤本(和之):
創業した時点では、ホームページという商材にこだわりがあったわけではありません。地方で中小企業向けに、継続収入型——今でいうサブスクリプションのビジネスをやりたい。それが先にありました。セキュリティやハードウェアも検討したのですが、調べてみると、当時の中小企業のホームページ開設率はそれほど多くありませんでした。ホームページを持たずに商売をすることのリスクや機会損失は大きいのに、開設率は低い。必要性のわりに普及していないというのは、ビジネスとして構造的に良い市場です。単価も当時は数十万円から100万円を超える水準でしたから、これはいい事業になると考えて選びました。
前職の経験も影響していますか。
藤本(和之):
大きいですね。前職では通信業界で、赤字を掘りながら顧客を獲得し、損益分岐点を超えた途端に急拡大していくストックビジネスの威力を内部から見ていました。携帯電話、銀行、保険、不動産。強いビジネスは継続収入型であることが多い。安定していて計算も立つ。だから自分で事業を興すなら、絶対にストック型だと決めていました。

月額1万円程度で制作から保守・運用まで丸ごと請け負う「丸投げ型」のサービス設計は、どこから生まれたのですか。
藤本(和之):
前職で中小企業向けにOA機器やソフトウェアを売る仕事を長くやっていて、中小企業の事務所には何百回と足を運びました。そこで見えたのは、お客様が本当に困るのは「物を買う時」ではなく「買った後」だということです。導入した後にどう使えばいいのか、トラブルが起きたらどうすればいいのか。そこにペインがある。だから、導入した後にお客様が労力をかけずに済む——極端に言えば「忘れていられる」状態をつくることに価値があると考えました。プロダクトそのものよりも、付随するサービスで優位性を取る。利益率が高いのもその部分です。そう設計しました。
営業は訪問を重視されてきたそうですね。
藤本(和之):
訪問は手間も時間もかかります。ただ、得られる情報量が圧倒的に多い。事務所に通されて眺めているだけで、社長の好みや考え方が分かります。対面営業の強みは、社長ご自身が言語化されていない課題まで想像して、刺さる提案を用意できるところだと思います。
単独では実現できないスピードで成長するために選んだM&A
沖縄県内で実績を築く中で、県外展開についてはどう考えていましたか。
藤本(和之):
沖縄は全国でもまだまだ小さい市場です。私たちはスタート時点ではまだまだ小さく、大手企業と人やお金で張り合っても勝ち目はない。まず限定された市場の中でしっかり広げていく、という順番は最初から考えていました。実際に沖縄でシェアを取り、ご縁があって徳島にも拠点を出しています。
誤解のないように言うと、自力では県外に出られないと思っていたわけではありません。実現することはできたと思います。ただ、「自力であること」への執着はなく、良い相手がいれば、一緒に展開できればと考えていました。
数ある選択肢の中で、最終的にラクスルグループを選んだ決め手は何でしたか。
藤本(和之):
率直に言えば、圧倒的な規模の顧客基盤へのアクセスです。私たちの顧客は数千社。ペライチやラクスルは桁が違います。この顧客基盤にアクセスできるなら、私たちにとってこれほど夢のある話はありません。
もう一つは信頼性です。県外に出れば「沖縄のROS?聞いたことがない」という反応は当然想像されます。規模も財務基盤も私たちとは比較にならない「ラクスルの看板」を借りられれば、拡張は格段にやりやすくなります。
「中小企業をエンパワーメントする」というラクスルの世界観との重なりはありましたか。
藤本(和之):
ありました。そこは私にとって必須条件でした。いくら大量の顧客基盤があっても、領域の違う層では意味がありません。中小企業を相手に、同じ解像度と価値観でサービスを提供していること。ラクスルさんが掲げている「中小企業をエンパワーメントする」という考え方は、私たちが沖縄でやってきたことと重なります。しかも何十年もかけてではなく短期間で、これほどの規模で中小企業のお客様がいる。そこに学ぶべきものがあると思ったことも、グループ入りの大きな理由です。
参画を決めたことについて、従業員のみなさんの反応はいかがでしたか。
藤本(和之):
ほとんど動揺はなかったと思います。手続きの日に全従業員へ伝え、ラクスルさんにも直接話をしてもらいました。冷静に考えれば、株主が私個人であるよりラクスルである方が、資金力でも人材の質と量でも、従業員にとって悪いことが起こりづらい構造になる。創業者としての愛着は私にありますが、それは私だけのものです。従業員にとっては、会社が良くなる可能性が高い選択こそが正解です。実際、そう受け止めてもらえた感触があります。
参画から半年。「単独なら、大阪にはまだ出ていない」
参画から半年あまりが経ちました。経営者としての時間の使い方は変わりましたか。
藤本(和之):
ほとんど変わっていません。「ああしろ、こうしろ」と言われることはなく、むしろ「今までのことを大切に、突き進んでください」と任せてもらっていると感じています。人事制度も、カルチャーが重なる部分があるので、大きく変革する必要はなく、尊重してもらっている。窮屈になったと感じている社員は、私も含めて一人もいないと思います。
逆に、明確に変わったことは。
藤本(和之):
単独でやっていたら、現時点で大阪には展開していないと断言できます。さらに、私たちが手がけている他のサブスク事業についても、グループとしてどう広げていけるかという議論が生まれている。単独なら、この発想の幅と角度はありませんでした。M&Aから半年ですが、視座が明らかに変わったというのが一番の変化です。
グループインすることによって経営管理上、対応すべき業務は増えました。ただ、あるべき姿はこれなのだと思っていますし、これは「良い負荷」だと捉えてやらせてもらっています。
今後1〜2年では、どんな成長を目指しますか。
藤本(和之):
利益の規模を大きくすることです。今の私たちの利益水準では、投資対象も限られます。桁を上げるには、事業の拡大、人員の拡大、対象とするマーケットの拡張が必要で、そのために必要だったのがM&Aでした。中小企業向けのサブスクであれば、ITにこだわるつもりはありません。ラクスルグループには既にある事業も、これから始まる事業もたくさんあります。単独では実現できないスピードで成長していきたいですね。
参画6年のペライチ。売上7〜8倍、そして創業以来初の通期の黒字化
藤本旬社長は2022年にCFOとしてペライチに入社されました。当時はどんな状況でしたか。
藤本(旬):
従業員が30名弱で、コーポレート機能がほとんど整っていない状態でした。ラクスルから最初の出資を受けたのが2019年、グループ参画が2020年です。ちょうど出資後にビジネスが伸び始めていたタイミングでした。 私はまずコーポレートの整備から着手しました。
参画時点と現在を比べると、会社はどう変わりましたか。
藤本(旬):
売上は、2019年の出資時点から 7〜8倍になりました。累計ユーザーは60万を超えています。一方で従業員は現在も40名弱と、実はそれほど増えていません。かなり効率的に、生産性高く運営できるようになったということです。プロダクトも、ホームページを作る機能から始まって、ビジネスに幅広く使っていただけるサービスへと成長しました。私が代表に就任してからは、AIを積極的に活用した効率的な会社運営を進めています。

2025年4月の代表就任は、どんな経緯だったのですか。
藤本(旬):
創業者からバトンタッチした前任の代表のもとで、事業は5〜6倍に伸びました。ただ、組織のフェーズが変わる局面で、経営体制を刷新することになった。ラクスルと話し合い、「ペライチを一番知っているのは自分だ」という状況でしたから、私が引き受けることにしました。
その際、ラクスルと相談して、CPO(最高プロダクト責任者)に加わってもらうことになりました。ペライチのようなビジネスへの親和性が高い方に来ていただき、CTO(最高技術責任者)もラクスルから入ってもらいました。
経営体制の変化は、会社にどんな影響がありましたか。
藤本(旬):
私が課題だと感じていたのは、経営の決定をメンバーに伝える「通訳者」、つまり経営チームの強化でした。CPOとCTOが入ったことでそこが埋まり、会社がどこへ向かうのかが定まった。全員が同じ方向を向くようになってから、退職者はほぼゼロです。そして就任後、創業以来初めての通期の黒字化を達成しました。マネジメントのスタイルも、合議制でディスカッションして進める形に変えています。
「M&Aされた側」の経営を引き継ぐ立場として、ラクスルとの距離感はどうでしたか。
藤本(旬):
先ほど和之社長がおっしゃったことと同じで、かなり自由にやらせてもらいました。守らなければいけないのは計画、つまり約束です。そこを守る前提で、組織づくりは軌道に乗せるまでこちらに任せてもらった。採用や人員計画もほぼ自社で判断しています。ラクスルスタンダードに合わせて視座を上げていく部分と、ペライチらしいカルチャーを守る部分。その両方を成立させてもらえたと思います。
創業者から前任代表、そして藤本さんへ。バトンが渡っても伸び続ける会社の条件は何だと思いますか。
藤本(旬):
必要なタイミングで、適切な人材を供給し合えることだと思います。事業を伸ばすのが得意な経営者、組織を設計するのが得意な経営者。フェーズによって求められる力は変わります。そのローテーションは、中小企業が単独でやろうとしても、リソースの面でまずできません。グループだからできることです。もう一つは、カルチャーです。同じ思想、文化、重なる部分があるからこそ、コアの部分は変えずに経営をし続けることができました。「中小企業に何を届けたいか」という根っこが揃っているから、変わらずに伸びていける素地があるのだと思います。
印刷×ホームページ、営業×SaaS。グループだから生まれる相乗効果
グループ内の連携は、具体的にどんな形で進んでいますか。
藤本(旬):
技術面では、ID連携が進んでいます。ペライチをご利用のお客様が、そのままラクスルのサービスもお使いいただける状態が整いつつあります。サービス面では、ラクスルでチラシを印刷されたお客様を対象に、入稿データを活用してAIでランディングページ(LP)を自動生成し、提供するサービスを開始しています。逆に、ホームページをチラシにしたい方のサポートもしています。お肉屋さん、八百屋さんと別々の店を回らなくても、ラクスルという大きなスーパーに行けば何でも揃う。M&Aで商材が広がることで、お客様が迷わずに使える、さらに便利なサービスへと進化していけると思っています。
お互いの会社に「自分たちにはない強み」を感じる部分はどこですか。
藤本(和之):
ペライチさんは、国産のホームページ作成ツールとして圧倒的なシェアを誇っています。その累計ユーザー数は、私たちが現状の延長線上で追いつけるような規模ではありません。しかもこれは、価格を下げれば越えられるという数字ではありません。無料にしたから規模を拡大できるというものではない。ペライチさんの形でしか取れない規模なんです。私たちは属人性の高いビジネスで、良い年で150%成長を実現してきました。しかし、ペライチさんはそれを超える成長フェーズを経験している。

藤本(旬):
私たちからするとまさに逆で、ROSさんの営業力です。ペライチはプロダクト主導で成長してきた会社で、営業がいないところからのスタートでした。お客様とのつながりは、プロダクトと価格しかない。一方でROSさんは、常にお客様のニーズを直接聞けて、つながりがあるから継続していただける。AIで誰でも簡単にホームページを作れるようになった今こそ、人が介在する価値がどこにあるのかが問われます。その答えを持っているのが、ROSさんの営業力です。
自力では作りきれない方、途中で諦めてしまう方を、ROSさんのような運用型サービスで拾い上げていく。入口から運用までの流れをグループで作れることには、大きな可能性があると思っています。AIが当たり前になってきたことで、両者の強みの掛け合わせはもっと速く進められるはずです。
「M&Aは身売りではない」。全国のWeb制作会社オーナーへ
お二人の経験を踏まえて、どんな会社にとって、ラクスルグループとのM&Aは良い選択肢になると思いますか。
藤本(旬):
後継者がいらっしゃらない会社や、事業をさらに伸ばしたいのに人材や顧客基盤が足りない会社です。その足りない部分を補う手段がM&Aであっていいと思っています。ラクスルグループには約360万のアカウントがあり、その顧客基盤に対してアプローチできます。加えて、ペライチがそうだったように必要なタイミングで必要な人材を相談できます。成長に不安を感じている会社こそ、一緒になることでさらに伸びていけるはずです。
藤本(和之):
私たちのように地域で中小企業のお客様と向き合ってきて、やりたいことはあるのに、顧客基盤や人が足りない——そういう会社には良い選択肢になると思います。「自力であること」にこだわりすぎないことが重要で、一番効果が出る方法が正解です。その答えがM&Aなら、迷う理由はあまりないと思います。
最後に、自社の成長や事業承継に悩む全国のWeb制作会社のオーナーへ、メッセージをお願いします。
藤本(和之):
事業にとって本当に重要なのは、会社が成長すること、雇用が増えることです。それが創業者の手を離れた方が実現しやすいのであれば、株を手放すことは悪いことではありません。M&Aというと「身売り」を連想される方も少なくありませんが、他者の力を借りて本質的に必要なことを実現していく、良い選択肢だと本当に思います。もちろん、M&Aによって変わること、変えなければいけないこともあります。しかし、明確なメリットも存在します。先入観を持たずに、ぜひ選択肢の一つとして考えてみてください。
藤本(旬):
昔に比べて、M&Aも含めて経営の選択肢は本当に増えました。会社のことを考えるのは大前提として、ご自身のライフスタイルや考え方に合った判断をしていい時代だと思います。もう一つ、地方と都市部の格差はITの力で縮まってきています。グループの力を活かして、AIなど最先端の技術を迅速に取り入れていく。経営として面白さが増すと思いますし、自分で全部やるのか、一緒にやってスピードを上げるのか。その選択肢を持ってもらえたらうれしいです。
ラクスルグループでは、ホームページ制作事業を営む企業とのM&A・資本提携のご相談を承っています。事業承継のご検討から、成長に向けたパートナー探しまで、まずは情報交換からでも構いません。
お問い合わせはこちら:https://corp.raksul.com/contact